症例紹介

CASE

  • 2023.7.18

再生医療(犬、脂肪幹細胞療法、頸部椎間板ヘルニア)

9歳のミニチュアピンシャーの症例です。「2日前からふらつきがある。前肢がひっくり返ってしまい、地面に引きずる。痛がって下を向けない。」という主訴で来院しました。

①「椎間板ヘルニア」とは?

椎間板ヘルニアは、人間だけでなくペットにも発症する病気です。
犬では「脊髄疾患」の中で一番多く発生する病気です。我々人間の場合もそうですが、ペットの場合も、体全体を支える「脊椎」が途中で歪んだり圧迫されたりすることによって起こる疾患です。
その名の通り、この「椎間板」という部分が病気の発症に大きく関わっています。この文章で詳しくは後ほど説明しますが、簡単に言うと、この「椎間板」が変性することで、犬や猫の背中の太い神経(脊髄)を圧迫してしまうことで起こります。その結果、ペットは歩行困難や麻痺、強い痛みなどを起こす可能性があります。

②椎間板ヘルニアの定義

背骨(脊椎)は頚椎(7個)と胸椎(13個)と腰椎(7個)に分かれています。椎間板は脊椎と脊椎の間にあり、背骨のしなやかな動きをサポートしています。
この椎間板が何らかの原因で飛び出してきて、脊髄を圧迫する病態を椎間板ヘルニアと言います。これが発生すると痛みや痺れを引き起こし、重度の場合は神経が損傷し麻痺などの症状を発症する可能性があります。特に、繰り返し過度なストレスがかかる部分や、物理的に打撃を受けた部分がヘルニアになりやすいです。椎間板ヘルニアの部位別の発症頻度は、頸部椎間板ヘルニアが約23%、胸腰部椎間板ヘルニアが73%で胸腰部の中でも胸椎と腰椎の移行部が最も多いです。これは、肋骨がある胸椎から肋骨がない腰椎へ変わる部位であるため、力学的な負荷が集中しやすい為とされています。

また、椎間板ヘルニアは発生機序により、HansenⅠ型(ハンセンⅠ型)とHansenⅡ型(ハンセンⅡ型)に分かれます。

HansenⅠ型(ハンセンⅠ型)
・急な発症が多い
・椎間板の弾力性が少なくなることで、中の核が飛び出し、脊髄を圧迫してしまう
・軟骨異栄養種(ダックスフントなど)に多い

HansenⅡ型(ハンセンⅡ型)
・年齢とともにゆっくり発症することが多い
・椎間板の線維変性により椎間板自体が出っ張り、脊髄を圧迫してしまう

椎間板ヘルニアは、品種や遺伝的要素、加齢等の影響も大きく、現在発症していない子でも適切なケアと注意が必要な病気とされています。

③主な症状

抱っこしようとしたら痛がる、ヨロヨロ・フラフラしてうまく歩けない、背中を丸めて歩く、歩行時に肢を引きずるなどの症状が一般的です。症状がどこに起こるかどうかは損傷した脊髄の位置により変わります。
頸部椎間板ヘルニアは前肢、後肢ともに症状が出やすく、胸腰部椎間板ヘルニアは後肢に症状が出やすい傾向があります。
また、病状が進行すると手や足に力が入らず立てなくなったり、排尿・排便が適切に出来なくなったりすることもあります。

これらの症状が見られた場合は、速やかに動物病院に連絡を取り、診察を受けていただくことが重要です。ペットのためにも、早期発見、早期治療が良い結果をもたらすことを忘れないでください。

④椎間板ヘルニアの治療

手術
圧迫している椎間板を手術で取り除きます。

内科療法
炎症を抑える薬や痛みを和らげる薬などを服用します。
絶対安静は椎間板ヘルニアの治療でもとても重要な役割を果たしています。

再生医療(脂肪幹細胞療法)
炎症を抑える脂肪幹細胞を血管点滴で投与します。

レーザー療法
患部に直接レーザーを当て、血流を改善します。

リハビリテーション
急性期の治療を終えてから始めます。

 

この症例は来院時、前肢、後肢ともに固有位置感覚が消失していました。固有位置感覚というのは、神経反射試験の1つで、麻痺により反射の程度も低下してきます。早速、治療を始めましたが、なかなか内科治療に反応が乏しかったため、脂肪幹細胞療法を行うことになりました。

脂肪幹細胞療法は再生医療の1つで、炎症を抑える脂肪幹細胞を血管点滴で入れる方法です。1時間ほどで治療は済みます。脂肪幹細胞療法の特長は痛くない治療、ツラくない治療、副作用の殆どない治療というところです。そのため、病気のペットさんたちに対しても受け入れやすい、体に優しい治療として症例数も増えてきています。

再生医療を行ってから1週間後の再診では、早速、治療効果がみられ始めました。活発に動き回るようになり、元気も戻ってきました。全体的な調子は大幅に改善したのですが、散歩の後や段差をジャンプするときには依然として症状が軽度に残ってしまっていたので、長期効果の持続する鎮痛剤を追加しました。その結果、すっかり調子が良くなり、治療は無事終了となりました。

 

 

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